AI面接で表情を分析してよいのか?米国の訴訟と、日本で確認すること
公開: 2026/08/19 / 更新: 2026/09/15 執筆: QRUU 編集部
米国マサチューセッツ州で、動画面接ツールが応募者の表情や声の抑揚をAIで分析していたとして、応募者が採用企業を訴えました。ツールを作った会社は被告に含まれていません。訴えは、嘘発見器を採用に使うことを禁じた古い州法にもとづいています。日本に同じ州法はありませんが、個人情報保護法や公正な採用選考の考え方に照らして確認しておきたい点があります。
米国で何が争われたのか
2023年、米国の大手小売チェーンCVSに応募した男性が、マサチューセッツ州の州法にもとづいて同社を相手に集団訴訟を起こしました。マサチューセッツ州連邦地方裁判所の判決文(Baker v. CVS Health Corporation et al., 事件番号23-11483、2024年2月16日)で、経緯を確認できます。
原告は2021年1月ごろ、同社のサプライチェーン職に応募しました。選考では動画面接ツールが使われ、応募者は「あなたにとって誠実さとは何ですか」「誰かが試験で不正をしているのを見たらどうしますか」といった質問に、録画されながら答えました。
訴状によれば、録画は第三者の感情分析エンジンに送られ、応募者の表情・視線・声の抑揚・イントネーションがAIで分析されていました。その結果は「employability score(採用適性スコア)」という数値でCVSに渡されていたとされています。訴状はツール側の説明として、応募者が「生来の誠実さと名誉の感覚を持っているか」を判定できることと、「嘘の検出」や「話を盛る応募者のふるい落とし」に役立つことを挙げています。
ここまでは原告側の主張です。裁判所は申立てを判断する段階で原告の主張を一応正しいものとして扱っただけで、事実かどうかは認定していません。
訴えられたのは、ツールを選考に使った企業
この訴訟で被告になったのは、動画面接ツールを選考に使ったCVSです。原告は自分が応募した企業を訴えており、ツールの提供元は被告に含まれていません。ツールで何ができるかを伝えていたのは提供元ですが、そのツールを自社の選考に組み込み、応募者に受けさせたのは採用企業で、責任を問われたのもこの採用企業でした。ツール側が「問題ない」と言っていても、応募者から説明を求められるのはツールを使う企業のほうです。
この記事では、ツールの会社名を書きません。取り上げたいのが、応募者の表情や感情をAIに評価させる手法そのものだからです。
訴えの根拠は、嘘発見器を規制する古い州法
原告は、マサチューセッツ州法149章19B条、いわゆる嘘発見器規制を根拠にしました。この州法は、雇用の条件として嘘発見器の検査を受けさせることを禁じています。
この訴訟のポイントは、州法での「嘘発見器の検査」の定義です。対象はポリグラフに限られず、「ポリグラフその他の装置、機構、器具または筆記による検査であって、欺瞞の検出、真実性の確認、または個人の誠実性に関する診断的意見を示すことを目的として運用され、またはその結果が用いられ解釈されるもの」とされています。装置の種類を限っていないため、法律ができた当時にはなかった技術でも、文言の上では対象になりえます。
同条には、州内の求人応募書類すべてに「マサチューセッツ州では、雇用の条件として嘘発見器の検査を要求または実施することは違法です」という告知を、はっきり読める形で載せることも定められています。さらに、違反によって被害を受けた人には自ら訴える権利があり、賃金などの損失については3倍額の賠償を求められます。
裁判所は何を判断し、何を判断しなかったのか
判決文によると、裁判所は「AI面接は嘘発見器にあたる」とは判断していません。被告の企業がその点を争わなかったためです。企業側が却下を求めたのは、3つ目の請求である「応募書類に法定の告知がなかった」という手続きの部分だけでした。争点は、告知の規定について個人に訴える権利があるかと、原告に訴えの資格があるかの2点で、裁判所はどちらの点でも企業側の申立てを退けて審理を先に進めました。
「AI面接が嘘発見器にあたるか」という一番大きな問いは、判断されないまま残りました。その後この訴訟は和解で終わり、条件は公表されていません。AIについて定めていない古い州法でも、AIを使った選考が訴えの対象になりました。一方で、どこまでなら問題にならないかという目安は、まだ示されていません。
提供元も、新規の評価モデルから映像の分析を外した
この訴訟で使われていた動画面接ツールの提供元は、2020年初めに新規の評価モデルから映像の分析を外したことを、2021年1月に公表しています。理由については、自然言語処理の精度が上がった結果、映像の分析が評価に加える価値はほとんどなくなったと説明しています。ただし、公表文が対象にしているのは新規の評価モデルで、原告が応募した2021年1月ごろの選考で映像が分析されていたかどうかは、訴訟で決着していません。
映像の分析を外していても、音声や話し方を分析していれば同じ問題が残ります。何が分析の対象に残っているかは、実際の処理の中身を聞いて確かめる必要があります。
欧州は2025年2月から、職場での感情推定を禁止した
EUのAI法(Regulation (EU) 2024/1689)は、第5条1項(f)で「職場および教育機関の領域において、自然人の感情を推定するAIシステム」を、医療上または安全上の理由による場合を除いて禁止しています。禁止規定を含む第2章は、第113条(a)により2025年2月2日から適用されています。
このAIシステムは法律の中で「感情認識システム(emotion recognition system)」と呼ばれ、生体データにもとづいて感情や意図を識別・推定するものと定義されています。例示されているのは幸福、悲しみ、怒り、驚き、嫌悪、当惑、興奮、羞恥、軽蔑、満足、面白さなどの感情で、痛みや疲労といった身体的な状態は含まれません。
職場で感情を推定するAIを使うことは、条件つきで認められる「高リスク」の区分より厳しく、原則として禁止される行為に分類されています。採用選考も職場に関する領域として扱われるため、欧州で採用活動を行う日本企業にも直接関係します。
日本ではどう考えるか
日本には、嘘発見器を採用に使うことを直接禁じる法律も、EUのAI法にあたる包括的な規制もありません。それでも、次の3つは確認しておきたいところです。
- 個人情報保護法:顔写真そのものは通常の個人情報です。本人を認証できる水準まで顔の特徴を数値化したデータ(特徴量)は「個人識別符号」にあたり、写真と切り離して保存しても、それだけで個人情報になります。顔の特徴量を作るツールかどうかは、導入前に聞いておきます。
- 公正な採用選考の考え方:厚生労働省は、採用選考を応募者の適性と能力にもとづいて行うことを求めています。表情や態度の印象を評価に使う場合は、それが適性や能力とどう関係するのかを説明できるようにしておきます。
- 越境移転:分析処理を海外の事業者に任せる場合は、委託であっても、外国にある第三者への個人データの提供にあたります。提供先がEUや英国にある場合や、基準に適合する体制を整えている場合などを除き、提供先の国名などを応募者に伝えたうえで同意を得る必要があります。
応募者から「どうやって評価したのですか」と聞かれたときに答えられるかどうかも、見ておきたい点です。表情のスコアが評価に影響していると、その理由を説明するのは難しくなります。
導入前に確認する5つのこと
AI面接ツールを検討するときに、表情や感情の分析について確認したいのは次の5つです。
| 確認すること | 確認の仕方 | 望ましい答え |
|---|---|---|
| AIが受け取るデータは何か | 映像・音声・会話のテキストのうち、評価する側のAIに実際に渡るものを聞く | 渡るものが明確に説明でき、範囲が限定されている |
| 表情・視線・声の分析を行うか | 「顔の特徴量を作るか」「感情を推定するか」と、処理の中身で聞く | 行わない。行う場合は根拠と精度の説明がある |
| 評価の根拠を示せるか | 評価レポートに、応募者の発言の引用が入るかを見る | 点数だけでなく、根拠になった発言が示される |
| 処理はどこで行われるか | 分析の委託先と、データの保存先の国を聞く | 委託先が開示され、越境移転の扱いが説明されている |
| 最終判断は誰が行うか | AIの点数だけで不合格にできる設定があるかを見る | 人が判断する。自動で不合格にしない |
ツールの選び方全般はAI面接ツールの選び方で解説しています。一次面接をどこまで任せられるかについては、一次面接を自動化する方法をご覧ください。
QRUUの場合
QRUUは、応募者の表情・視線・容姿を分析しません。評価を行うAIには映像が渡らない仕組みで、AIが受け取るのは会話のテキストです。そこから読み取れないことは評価の根拠にしないよう、AIに指示しています。
履歴書に顔写真が含まれる場合、写真は採用担当者が画面で見るためのものとして扱い、応募者と求人のマッチング判定には渡していません。年齢・性別・国籍・住所・出身地・家族・婚姻・健康状態も同じ扱いです。顔の特徴量を作る処理もしていません。
評価レポートには、根拠にした応募者の発言をそのまま引用するようにしています。「明瞭」「丁寧」「好印象」「ハキハキ」など、話し方の印象を表す言葉を評価の根拠に書かないよう、あわせて指示しています。
面接中の記録として、回答までの待ち時間や画面から離れた回数といった行動の情報は残します。面接官が状況を把握するための補足として使うもので、この記録をもとに自動で不合格にすることはありません。本人確認やなりすましの判定はしていません。
録画データは東京リージョンに保存しています。合否は採用担当者が判断し、AIの評価は参考情報として提供しています。
この記事のまとめ
米国の訴訟では、AIについて定めていない古い州法を根拠に、動画面接ツールを選考に使った企業が訴えられました。欧州は、職場で感情を推定するAIを原則として禁止しました。この訴訟で使われていたツールの提供元も、映像の分析が評価に加える価値は小さいとして、新規の評価モデルから映像の分析を外しています。
この記事は制度と事例の紹介です。自社での具体的な対応は、弁護士や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
よくある質問
- 米国の裁判所は、AI面接を嘘発見器だと認定したのですか?
- いいえ。判決文によれば、被告になった採用企業は「嘘発見器にあたるか」という点を争っていません。企業側が却下を求めたのは、応募書類に法定の告知がなかったという手続きの部分だけで、裁判所はその申立てを退けました。その後この訴訟は和解で終わっており、AI面接が嘘発見器にあたるかどうかについて判決は出ていません。
- 訴えられたのは、AI面接ツールの提供元ですか?
- いいえ。被告になったのはそのツールを選考に使った採用企業で、提供元は含まれていません。ツールの機能を説明したのは提供元でしたが、自社の選考に組み込んで応募者に受けさせたのは採用企業でした。
- 日本でも、AI面接で表情を分析すると違法になりますか?
- 日本には、嘘発見器を採用に使うことを直接禁じる法律も、EUのAI法にあたる包括的な規制もありません。ただし、本人を認証できる水準まで顔の特徴を数値化したデータは個人情報保護法の「個人識別符号」にあたり、顔写真と切り離して保存しても、それだけで個人情報になります。また厚生労働省は、採用選考を応募者の適性と能力にもとづいて行うことを求めています。表情の印象を評価に使う場合は、それが適性や能力とどう関係するのかを説明できるようにしておく必要があります。個別の判断は専門家にご相談ください。
- QRUUは応募者の表情を分析していますか?
- 分析していません。評価を行うAIには映像が渡らない仕組みで、AIが受け取るのは会話のテキストです。履歴書の顔写真も採用担当者が見るためのもので、マッチング判定には渡していません。顔の特徴量を作る処理もしていません。
参考にした一次情報
- Baker v. CVS Health Corporation et al.(マサチューセッツ州連邦地方裁判所 判決文・事件番号23-11483・2024年2月16日)米国政府出版局(GovInfo)
- Regulation (EU) 2024/1689(EU人工知能法)第5条1項(f)・第113条EU官報(EUR-Lex)
- 公正な採用選考の基本厚生労働省
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)個人情報保護委員会
本記事は上記の公的な情報をもとに、採用担当者向けにかみくだいて解説しています。制度の詳細や最新の内容は、必ず出典元をご確認ください。 執筆方針は編集方針をご覧ください。